「物語的描写」について考える(その1)

土木計画論文ではしばしば「ナラティブ・アプローチ(=物語的描写)」なる定性的評価手法を用いた論文が登場する。この手法によるまとめ方については賛否両論あるそうだが、私は実際に卒業研究でその手法を用いて論文を書き上げた。身も蓋も無い話、土木工学を学ぶ一理系の自分が数式を一つも使わずに論文を書き上げてしまうことに最初は抵抗感を感じた。なぜ卒業研究で物語を扱うことになった細かい経緯については割愛するが、私が物語を扱うことになった理由の一つとして、「サンプル数が少なかったから」ということがあった。つまり、サンプル数が少なく、統計解析が極めて困難な状況にあったことで、実験結果の評価手法として物語を使わざるを得なかった、ということである。きっかけはともあれ、私はすっかり物語的描写の便利さに取り憑かれてしまい、修論でも物語を使おうか迷っているところですらある(元々は交通手段選択モデルやりたかったのに泣)。さておき、本稿では、自らの経験も踏まえ、物語的手法が(特に土木計画論文において)どのようなインパクトを与えるのかということを論考し、物語的描写が与えるメリット・デメリットについても考えたいと思う。

ここで物語的描写が評価手法としてどのような位置付けになっているか、簡単に説明したい。(それは違う!とお偉いさんから叱られそうですが。。。)見識の限りでは、土木計画学における物語的手法は大きく2つに分類されていると認識している。まず1つとして、「過去の土木計画・プロジェクト評価の時系列的な効果把握」である。これは、過去の土木分野における施策・プロジェクトがどのような情勢やステークホルダーによって、いかに成功へと導かれたのかという、要因を分析する際に用いられることが多い。また、この手法の特徴として、目標が「物語を書き上げること」に終着点を設けるパターンが多いということである。定量評価では表しきれない施策評価を物語的描写を用いることで、いわば、潤滑液ないし接着剤のように繋げていく役割があると言える。2つ目として、「作成した物語の提示により、地域愛着や自己理解を深めてもらう」パターンである。こちらは、あまり数は少ないが、とある研究では、プロの作家に地域のバスに関する物語を執筆してもらい、それを地域住民に読んでもらうことで、交通に対する愛着を深めてもらうといった内容の論文が存在する。

つまり、多くの場合は前者の使い方による物語的描写であり、既存の研究を探ると特に2010年代前半の論文にその傾向が強く見られる。ちょうどこの頃、MM(モビリティ・マネジメント)が土木計画学の中では少しブームになっていたそうである。MMは「賢くクルマを使っていこう」みたいなSDGsの先駆けのようなものであるが、MM施策の評価には物語的描写がマッチしていたのかもしれない。実際に、とある県のTDM施策(交通需要マネジメント、MMの一つ)の事後評価に物語的手法を用いている論文があったりと、「MM×物語」の構図を成している論文がいくつか見つかる。。

というところで次回は、MM施策と物語的描写の親和性についてもう少し考察してみたいと思う。ではまた。


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